何十年も前の話だが、ぼくは渋谷で生まれた。
生まれた頃に住んでいた古ぼけた団地が再開発で取り壊されると聞いて
何十年ぶりに訪れてみた。
建物はきれいに手入れがされていてそれほど古ぼけた印象ではなかった。
でも、この場所は確かに何十年も前に、まったく同じ形で存在していた。
ぼくが3歳の頃、東京に大雪が降った。
生まれて始めての雪にはしゃぎ回って外で遊ぶぼくを、父が写した写真がある。
この同じ場所。この建物の前。このさくの前。この大きなけやきの木の下。
写した父はもう いない。
その存在は この同じ場所に立つぼくの記憶の中にしか ない。
もうじき建物はとり壊され、この敷地いっぱいにマンションが建つのだという。
けやきの木は のこるのだろうか。